公正証書遺言とは | メリット・デメリットと自筆証書との違い

遺言書を作成しようと考えた際、「自分で書くべきか、それとも公証役場でしっかり作ってもらうべきか」と迷われる方は非常に多くいらっしゃいます。

結論からお伝えすると、将来の家族トラブルや手続きの不備・無効リスクを出来る限り減らしたいのであれば、選ぶべきは「公正証書遺言」です。

今回は、公正証書遺言の基本的な概要から、メリット・デメリット、自筆証書遺言との違いまで、理学療法士(PT)・2級FP技能士・行政書士の視点を交えてわかりやすく解説します。

目次

公正証書遺言とは?

公正証書遺言は、公証役場にいる『公証人(裁判官や検察官あるいは弁護士として法律実務に携わった法律のプロ)』に遺言内容を伝え、「公正証書」という形式で遺言書を作成します。

公正証書とは、公的な信用が非常に強い公文書です。

公証人が法律に基づいて作成し、作成時には証人2名の立ち会いのもとで本人の意思確認を行うため、遺言書の形式の中で最も信頼性が高い方法とされています。

公正証書遺言のメリット

自分で書く自筆証書遺言と比べ、公正証書遺言には残されるご家族の負担を劇的に減らす大きなメリットがあります。

形式不備で無効になるリスクを極限まで減らせる(公証人が作成)

自分で書く自筆証書遺言では、日付の記載漏れや署名捺印のミス、あやふやな表現などが原因で、亡くなった後に「法的に無効」と判断されてしまうリスクが常に付きまといます。

公正証書遺言は法律の専門家である公証人が作成するため、形式上の不備で無効になるリスクは最も少なくなります。

形式の不備により無効となってしまうと、法定相続人全員で遺産分割協議をしなければならないことを考えると、このメリットは非常に大きいです。

認知症・意思能力をめぐる後日のトラブルを防ぎやすい

遺言書が残されていても、残された親族から「作成当時は認知症が進んでいたから、誰かに言わされて書いたに違いない」と無効を訴えられ、家族間の裁判トラブルに発展するケースは少なくありません。認知症の症状は日によって波もありますので、調子が悪かった日の状態を根拠に、相続人から遺言書の無効を主張されるかもしれません。

公正証書遺言の場合、作成当日に本人・証人・公証人が遺言書についてやりとりをして、意思や遺言書の内容の確認を行います。その後、本人・証人・公証人が署名・押印をします。このような流れを通して遺言能力(意思能力)があることを確認した上で作成することで、後から「判断能力がなかった」と無効主張されるリスクを抑えることができます。

無効を主張される余地を出来るだけ残さないことで、遺産分割協議の手間だけでなく家族間トラブルが発生する可能性も減らすことができます。

※ただし、公正証書遺言が無効とされた判例がいくつか存在するので、100%確実とは言い切れないことに注意が必要です。

検認手続きが不要で、残された家族の手続きがスムーズ

自筆証書遺言を自宅等で保管していた場合、亡くなった後に家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きを経なければ、預貯金の解約や不動産の名義変更に使えません。この手続きには数週間〜1ヶ月程度の時間と手間がかかります。

公正証書遺言であれば家庭裁判所の検認手続きが一切不要です。亡くなった直後からスムーズに各種相続手続きを進めることができ、残されたご家族の精神的・時間的負担を大幅に軽減できます。

紛失・隠蔽・改ざんの心配がない(公証役場で保管)

作成した公正証書遺言の「原本」は、公証役場で長期にわたり保管されます。遺言者の死亡後50年、証書作成後140年または遺言者の生後170年間保存する取扱いとされております。

そのため、自宅で保管する際のように「遺言書を無くしてしまった」「自分に不利な内容を見た親族に隠された・書き換えられた」という心配が一切ありません。

複雑な相続内容を書くこともできる

  • 複数の不動産や預貯金口座がある
  • 法定相続人以外への遺贈をしたい
  • 特別寄与や生前贈与も考慮した分配をしたい
  • 推定相続人の一部が被相続人(遺言書を書く人)より先に死亡した場合などに備えて予備的遺言を充実させたい

こういった事情があると、遺言書の内容が複雑かつ長文になります。

複雑な内容の遺言書は、読み方によって解釈が分かれる文章になってしまうリスクがあります。遺言の真意が読み取れない場合、その部分は遺産分割協議が必要になる可能性があります。公正証書遺言の場合、法律のプロが遺言内容を実現する文章を作成してくれるので、自分の意思を正確に反映した、解釈が分かれない文章を書いてもらうことができます。

そして、長い遺言書を自筆するのはシンプルに大変です。書き損じた場合の訂正方法は厳格に定められた方法で行わなければなりません。私は自分自身の自筆証書遺言に予備的遺言を盛り込んで書いたことがありますが、大変な集中力と体力、そして時間を要しました。公正証書遺言の場合、公証人が文書を準備してくれるので、この負担がゼロになります。

字が書けなくても作成が可能

自筆証書遺言は「全文・日付・氏名」を自書しなければならず、手が震えるなどの理由で他人に手を添えてもらったりすると、遺言自体が無効になる危険があります。

理学療法士として病院の現場で、加齢や病気により書字に困難さをかかえられた方も多く見てみましたが、そのような場合に自筆証書遺言を書くというのは非常に困難だなという印象を持っています。

その点、公正証書遺言であれば、公証人が本文を筆記・作成するため、本人は内容を確認して氏名を自書(署名)するだけで作成できます。この署名も、病気等で署名すら難しい場合は、公証人が代行・付記することも認められています。

公正証書遺言のデメリット

非常にメリットの多い公正証書遺言ですが、事前に知っておくべきデメリットも存在します。

公証人手数料などの費用がかかる

紙とペンがあれば無料で書ける自筆証書遺言とは異なり、公証役場へ支払う「公証人手数料」が発生します。手数料の額は、残す財産の額や遺贈する相手の人数によって法律で定められています(数万円〜十数万円程度が一般的です)。

【公証人手数料】公証人手数料の計算例(2026/9/5時点)について見る(クリックで開きます)
目的の価額手数料
50万円以下3,000円
50万円を超え 100万円以下5,000円
100万円を超え 200万円以下7,000円
200万円を超え 500万円以下13,000円
500万円を超え 1,000万円以下20,000円
1,000万円を超え 3,000万円以下26,000円
3,000万円を超え 5,000万円以下33,000円
5,000万円を超え 1億円以下49,000円
1億円を超え 3億円以下4万9,000円に超過額5,000万円までごとに1万5,000円を加算した額
3億円を超え 10億円以下10万9,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額
10億円を超える場合29万1,000円に超過額5,000万円までごとに9,000円を加算した額
計算例 総額9000万円の財産を妻に5000万円、長男に2000万円、二男に2000万円の財産を相続させる場合(2026/9/5時点)

妻  5000万円 → 33,000円
長男 2000万円 → 26,000円
二男 2000万円 → 26,000円

遺言加算(目標価額の合計額が1億円以下) → 13,000円

合計手数料 98,000円

※祭祀主宰者の指定、公証人が出張した場合、証書の枚数による手数料の加算などもあります。

※出張作成の場合の病床執務加算や日当、旅費等は別途加算されます。最新の正確な情報は日本公証人連合会HPをご確認ください。当事務所にて事前概算を算出してご案内いたします。

証人2名の確保と必要書類の収集に手間がかかる

作成時には、利害関係のない「証人2名」の立ち会いが義務付けられています(推定相続人やその配偶者は証人になれません)。

また、戸籍謄本や不動産の登記事項証明書、固定資産税評価証明書など、事前の資料収集の手間がかかります。

なお、当事務所に依頼していただいた場合、必要な資料の収集や当日の証人の手配もお引き受けいたします。

遺言が存在することと内容を完全に秘密にできない

公証人と証人2名に対して遺言内容を開示して作成するため、「自分一人だけで完全に秘密にしておきたい」という場合には向きません(※公証人や証人には法律上の守秘義務があるため、外部へ漏れることはありません)。

自筆証書遺言との違い

公正証書遺言と自筆証書遺言の違いを比較しました。

比較項目 自筆証書遺言 公正証書遺言
作成方法・手間 本人が手書きで作成
(紙とペンがあればすぐ書ける)
遺言書の文案をもとに公証人が作成
(資料収集と公証人との打合せが必要)
費用 無料(※法務局での保管は3,900円) 公証人手数料が必要
(財産額などに応じた手数料)
内容確認・形式不備 確認なし
(形式不備で無効になる恐れあり)
公証人が確認
(形式不備のリスクはほとんど無い)
意思能力の証明 後から無効を主張されやすい 公証人が直接確認(無効になりにくい)
証人 不要 2人必要
作成場所 自宅など 公証役場など ※出張あり
保管場所・リスク 自宅または法務局
(自宅保管は紛失・改ざんのリスクあり)
公証役場で厳重保管
家庭裁判所の検認 必要 ※手続きに数週間〜1ヶ月程度かかる
(※法務局で保管した場合を除く)
不要(すぐ手続き可能)
作成方法・手間
自筆証書遺言
本人が手書きで作成(紙とペンがあればすぐ書ける)
公正証書遺言
遺言書の文案をもとに公証人が作成(資料収集と公証人との打合せが必要)
費用
自筆証書遺言
無料(※法務局での保管は3,900円)
公正証書遺言
公証人手数料が必要(財産額などに応じた手数料)
内容確認・形式不備
自筆証書遺言
確認なし(形式不備で無効になる恐れあり)
公正証書遺言
公証人が確認(形式不備のリスクはほとんど無い)
意思能力の証明
自筆証書遺言
後から無効を主張されやすい
公正証書遺言
公証人が直接確認(無効になりにくい)
証人 / 作成場所
自筆証書遺言
証人:不要 / 場所:自宅など
公正証書遺言
証人:2人必要 / 場所:公証役場など ※出張あり
保管場所・リスク
自筆証書遺言
自宅または法務局(自宅保管は紛失・改ざんのリスクあり)
公正証書遺言
公証役場で厳重保管
家庭裁判所の検認
自筆証書遺言
必要 ※手続きに数週間〜1ヶ月程度かかる(※法務局で保管した場合を除く)
公正証書遺言
不要(すぐ手続き可能)

公正証書遺言が向いている人

以下のいずれかに該当する方は、自筆証書遺言ではなく「公正証書遺言」での作成を強くおすすめします。

  • 死後に相続人や受遺者へ負担をかけず、速やかに遺言を実行したい人(検認不要)
  • 遺言書の紛失のリスクを避けたい。
  • 病気や高齢などで文字を自書することが困難な人
  • 遺言の効力や「遺言能力」を巡る争いを未然に防ぎたい人
  • 遺言の信ぴょう性(本人の意思であること)を高めたい人
  • 遺産分割協議の成立が困難と予想される人(「争族」のリスクが高い)
    • 相続人同士の仲が良くない
    • 家族関係・戸籍関係が複雑(前婚の子、再婚の子がいるなど)
    • 財産や相続人間の関係で不公平感が生じやすい場合
      • 特定の子が親の介護や事業を手伝ってきた(寄与分)
      • 特定の子が住宅資金や開店資金などの生前贈与を受けている(特別受益)
      • 特定の相続人に財産を多く残したい、あるいは相続人以外の者(長男の嫁、孫、寄付先など)に遺贈したい
  • 複雑な遺言書を書きたい
    • 財産が複雑、予備的遺言を書きたいなど

よくある質問(FAQ)

高齢で公証役場まで出向くのが難しい場合はどうすればいいですか

公証人に自宅や病院、介護施設まで出張してもらい、ベッドサイドで公正証書遺言を作成することが可能です(※出張手数料や日当が別途発生します)。当事務所でも出張作成の事前セッティングや調整を行っています。

証人2人は誰に頼めばいいですか?知り合いに頼むと内容がバレませんか?

推定相続人や受遺者(財産をもらう人)とその配偶者は証人になれません。ご友人等に頼むと内容が伝わってしまうため、守秘義務のある行政書士などの専門家や、士業事務所側で用意する証人に依頼するのが一般的で最も安全です。

一度作った公正証書遺言はやり直せますか?

はい、何度でも撤回や書き直しが可能です。新しく作成した遺言書の内容が優先されるため、将来お気持ちや資産状況が変わった場合でも修正できます。ただし、作業に応じた公証人への手数料がかかります。

まとめ

公正証書遺言は、費用や事前の準備に多少の手間はかかるものの、「形式と遺言能力の面で無効リスクが低い」「複雑な遺言書を書くことができる」「字が書けなくても作成可能」など、多くのメリットを備えています。

自分の選択を正確に遺し、大切なご家族を将来の争いや面倒な裁判手続きから守るための費用と考えれば、最もコストパフォーマンスに優れた生前対策と言えます。

どうしても費用が捻出できないという事情がなければ、公正証書遺言を第一候補として検討していただくことをお勧めします。

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遺言書は、単に今ある財産をどう分配するかを指定すればいいだけのものではありません。その分配を決めるには、今とこれからの健康状態、今後の資産の推移、ご家族様の状況など複雑に絡み合う情報をひとまとめにする必要があります。先を見通した遺言書でなければ、年月の経過とともに状況にそぐわない遺言書になってしまいます。

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この記事を書いた人

北九州市・小倉南区を中心に、理学療法士の経験を持つ行政書士として、シニア世代とそのご家族が笑顔で未来へ進むための『健康終活』をサポートしています。 エンディングノートの書き方や遺言書の準備で「我が家の場合はどうすればいい?」と迷われたら、まずは近所の相談相手として、お気軽にお声がけください。

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