エンディングノートに「遺言書」「相続」について書く欄が設けてあることがあります。これは、何のために書くのでしょうか。
「エンディングノートに相続の希望を書いても、法的効力がないからあんまり意味はないよ」と思われる方もいるかもしれませんが、それとは別に重大な役割をもっています。「争族」を起こさないための、とても重要な役割です。
この記事では、なぜ遺言書や相続のページがあるのか、そして、どのようなことを書くといいのかを解説します。
なぜ遺言書・相続について書くのか
主な記載内容は以下の2つです。
- 「遺言書の存在や保管場所の情報」
- 「相続の希望」
遺言書の存在や保管場所の情報
これが非常に重要な情報です。
遺言書があれば、その内容が相続手続きの重要な指針になります。もし遺言書がない場合は、相続人同士で遺産の分け方を話し合うことになります。ですので、まずは遺言書があるのかないのか、そして家族が遺言書にたどり着けることが重要です。
もしも、遺言書があるのにその存在に気付かずに「遺産分割協議」という法定相続人による話し合いをしたとします。ようやく話がまとまり、財産の分配などが終わった後で遺言書が出てきた場合、どうなるでしょうか。その場合、基本的には遺産分割協議ではなく遺言書の内容が優先されることになります。
遺言書どおりに財産の分配をし直すことができればよいですが、できるとも限りません。遺言書が見つかる前に、分配された財産を処分(売る、譲るなど)してしまっていたらどうでしょう。その相手が事情を知らなかった場合、その処分は有効なものとなります。そうなると、財産を元通りに戻すことが困難になります。
たとえ遺言書があったとしても、法定相続人全員が同意をすれば、遺言書とは違う遺産分割の方法を遺産分割協議で決めることもできます。しかし、遺言書に書かれた財産の分配先に、法定相続人以外の誰かがいた場合、その人(受遺者)の同意も得なければなりません。
こういったトラブルが後から発生すると、親族間に大きな禍根を残すこととなります。親族がもめないことを願って作成した遺言書が原因でそのような事態が起きないよう、遺言所の存在と保管場所の情報は必ず伝わるようにしておきましょう。
相続の希望
では、遺言書を書かないという選択をした場合はどうでしょう。「私の家族は仲がいいから」「たいして財産は残っていないから」という理由で遺言書は書かないこともあるかもしれません。
その場合は、エンディングノートの「遺言・相続」のページに自分自身の希望を書くことで、遺産をどうしてほしいのか「相続の希望」を伝えることができます。
ただし、エンディングノートは遺言書の代わりになるものではありません。
エンディングノートに相続の「希望」を書くことには意味がありますが、法的効力がないことを知ったうえで書くことが必要です。相続の希望を法的に実現したい場合は、遺言書の作成も検討したいところです。
遺言書・相続について書くときのポイント
エンディングノートには法的な効力がない
「相続の希望」について書くときに心に留めておきたいことがあります。それは
エンディングノートには法的な効力がない
ということです。
相続人が、エンディングノートに書かれた希望を参考にして遺産の分け方を決めることはあるかもしれません。しかし、希望を汲み取らなかったとしても、エンディングノートに書かれているという理由で本人の希望どおりの分け方を求めることはできません。あくまでも”希望”としてしか機能しないと理解した上で、書いておく必要があります。
| エンディングノート | 遺言書 |
|---|---|
| 気持ちや希望を伝える | 法的な効力を持つ |
| 家族への情報共有 | 財産の承継方法を指定できる |
| 自由に書ける | 法律上の方式に従って書く |
「私の家族は仲がいい」とはよく聞く言葉ですが、それは絶対的なものではありません。あなたのいなくなった世界でも、家族は変わらずに仲良くやっていくと確信がもてますか。「あなた」という支柱となる存在があるからこそ家族がまとまっている。そのような可能性はないでしょうか。
「たいして財産は残っていない」。これも良く耳にします。しかし、相続をめぐる裁判のうち、財産額1000万円以下のものが36%、5000万以下のケースが78%を占めます。(令和6年 司法統計年報)。相続争いは一部の富裕層で起きているものではないのです。
「仲のいい家族」が遺産分割で引き裂かれることがないよう、自分の希望を法的に残すために、遺言書の作成を検討することも大切です。
遺言書を残す場合、エンディングノートの「相続の希望」の内容に注意する
最初はエンディングノートに「相続の希望」を書いたけれども、後々、遺言書を書くこともあると思います。正式に遺言書を作成した場合、エンディングノートに記載した「相続の希望」が遺言書の内容と異なっていると、トラブルに発展する可能性があります。
もちろん、法的な効力を持つのは遺言書です。ですが、遺言書と異なる内容がエンディングノートに記載されていて、エンディングノートに記載された内容が遺言書の内容よりも「特定の親族」に有利な内容だったら…その親族はどのような気持ちになるでしょうか。
「その遺言書は無効だ!」と訴えを起こしたくなることは考えられないでしょうか。
エンディングノートが争いの種にならないように、遺言書と内容が矛盾していないか、また誤解を招く記載が残っていないか確認しておきましょう。矛盾していないか不安な場合は、遺言書の作成を依頼した専門家などに相談してみるのも一つの方法です。
生前に開封されるリスクにも配慮する
エンディングノートは、生前に第三者の目に触れる可能性がゼロではありませんので、遺言書を自宅で保管している場合、その場所をエンディングノートに書いてしまうことで、意図しない形で内容を知られてしまうおそれもあります。
かといって、保管場所が全く分からないと見つからずに遺産分割が行われる可能性もあります。
保管場所を具体的に書くかどうかは、ご自身の状況に応じて判断が必要です。少なくとも、家族が遺言書の存在に気付けるような手がかりは残しておきたいところです。
最低限書いておきたい項目
家族が遺言書の存在を把握し、適切な手続きにつなげるために、最低限以下の項目を分かる範囲で記載しておくと安心です。
このページには「相続の希望」を書くこともできますが、希望については前述のとおり法的な効力はありません。そこで以下では、家族が遺言書を見つけて適切な手続きにつなげるために、最低限記載しておきたい「遺言書の情報」をご紹介します。
遺言書の有無
「ある」か「ない」かを明記します。「ある」場合だけでなく、「ない」と分かれば、家族は無駄に遺言書を探し回る必要がなくなり、それだけで確認の助けになります。
遺言書の種類・形式
「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」など、どの形式かによって家族のその後の初動が変わるため、中核となる情報です。それぞれ保管場所や確認方法が異なるため、どの種類の遺言書を残しているのかを遺族に示しておかないと、家族はあちこちに問い合わせて探す必要がでてきます。
保管場所または探索先
「自宅の書斎の引き出し」など、どこにあるか、あるいはどこに問い合わせればよいかの具体的な導線を示します。
公正証書遺言の場合、手元に保管している「正本」と「副本」の保管場所を記載しておくと家族の確認の助けになります。
自筆証書遺言の場合は、法務局での遺言書保管制度を使っている場合それも記載しましょう。
作成年月日
複数の遺言書が存在する場合は、作成年月日が重要な手がかりになります。万が一、古い下書きや複数の遺言書が見つかった際、家族が「これが最新版だ」「より新しい遺言書がないか確認しよう」と判断するための大切な情報です。
書いてあると、さらに家族の助けになる情報
基本の項目に加えて、さらに書き残せるゆとりがある場合は、以下のような情報を備考欄やフリースペースに添えておくと、家族の手続き負担を減らす参考になる場合があります。
遺言執行者の有無と連絡先
遺言の内容を具体的に実行する人(遺言執行者)があらかじめ決まっている場合は、その方の氏名と連絡先を書いておきましょう。その後のやり取りがスムーズになります。
相談・依頼した専門家の情報
遺言書の作成をサポートしてもらった行政書士、弁護士、司法書士などの「氏名・事務所名・連絡先」です。手続きで困ったときに、家族が相談先を検討する手がかりになります。
エンディングノート「遺言書」の記載例
ノートのスペースに書く際の、シンプルな記入例をご紹介します。
【遺言書の記録】
- 遺言書の有無: あり
- 遺言書の種類: 公正証書遺言
- 遺言執行者: 長男 〇〇〇〇(遺言書で指定)
- 保管場所:正本・副本は自宅書斎の茶色のファイル。(原本は公証役場で保管)
- 作成年月日: 2025年10月15日
【遺言書の記録】
- 遺言書の有無: あり
- 遺言書の種類: 自筆証書遺言
- 遺言執行者: 長男 〇〇〇〇(遺言書で指定)
- 保管場所:法務局に保管
- 作成年月日: 2025年11月15日
まとめ
エンディングノートの遺言書のページには、法的な効力を持つ遺言そのものの代わりにはなりません。しかし、家族が遺言書を見つけ、正しい手続きへ進むための架け橋として、非常に大切な役割を持っています。
すべてを完璧に書き残しようとする必要はありません。まずは「遺言書があるのかないのか」「どの種類の遺言書なのか」「どこを探せばよいのか」という最低限の手がかりが分かるだけでも、家族にとっては大きな助けになります。
詳細な手続きの手順や個別の法的な判断については、状況によって異なります。必要に応じて専門家へ相談しながら進めましょう。遺言書の情報を整理して残しておくことは、残された家族の負担を減らす大切な備えになります。


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