エンディングノートにはネットサービスや携帯電話のパスワードを書く欄が設けてあることがあります。もしものときにパスワードを入力して、サービスの解約などを行ってもらうという目的です。確かに、家族が困らないようにするという意味では、一見すると合理的な考え方です。
しかし、本当にそうでしょうか。
「もしものとき」ではない時にエンディングノートを見られたら。
家族以外の人の目に触れたら。
認知症になり、自分では管理できなくなったら。
パスワードを書き残すことは、便利である一方で、生前の財産やプライバシーのリスクも生み出します。
エンディングノートにパスワードを書くことは本当に必要なのか?
この疑問から、終活におけるパスワード管理のあり方について、考察していきます。
- パスワードを書く必要は本当にあるのか
- 死亡した場合と認知症になった場合では何が違うのか
- 家族が困らず、本人の財産やプライバシーも守るにはどう考えればよいのか
最初に結論を述べると、「エンディングノートにパスワードを書く欄があるからといって、そのままパスワードを書くべきではない」と私は考えています。もちろん、何も残さないことも得策とは思いませんが。
「パスワードが分からないと家族が困る」は本当か
エンディングノートにパスワードを書こうと考える理由の多くは、「家族が解約できなくなる」という心配ではないでしょうか。
ネット銀行、SNS、サブスクリプション、ネット通販など、最近ではほとんどの契約がオンラインになっています。
だからこそ、「パスワードを書いておいた方がいい」という話になりがちです。私が見たエンディングノートの中には、「パスワードがわからないと何もできない」と書かれたものもありました。
しかし、本当に書かないといけないのでしょうか。
死亡した場合、パスワードは必須ではない
実際に主要サービスの案内を調べてみました。
Amazon
故人のメールアドレスへアクセスできる場合は、サインインしてそのまま手続きを進められると公式ページに記載がありました。一方でアクセスできない場合でも、権限を確認した上で手続きを案内するとしています。
(2026年7月27日確認時点)
つまり、パスワードが分かれば手続きが早いものの、パスワードがなければ一切解約できないわけではありません。
LINE
LINEのアカウントは、そのアカウントを作成した本人以外の利用を認めていません。遺族であっても故人のアカウントを引き継ぐことはできず、削除を希望する場合は問い合わせフォームから申請します。
(2026年7月27日確認時点)
Instagramも、本人以外がログインすることを禁止しています。その代わり、近親者であることを証明できれば、削除申請ができる仕組みがあります。
(2026年7月27日確認時点)
つまり、LINEとInstagramはパスワードが分かっていても、本人以外のログインが認められていません。一方で、パスワードがなくてもアカウントを削除する道がちゃんと用意されています。
共通して見えてくること
サービスごとに細かな違いはあります。しかし共通していることがあります。
死亡後については、パスワードを使わなくても解約への手続きを用意しているサービスが少なくありません。むしろ、パスワードが分からないと解約できないというサービスが、私の調べた範囲では確認できませんでした。
つまり、「死亡後の解約に必ずパスワードが必要」とは言い切れないのです。
認知症になった場合の案内は見当たらない
では、認知症など、本人は生存しているものの判断能力が低下した状態はどうでしょうか。エンディングノートは死亡時だけでなく、認知症などにより判断能力が低下した状況も想定して記載しますので、その状況でのパスワードの必要性についても確認が必要です。
まず、インターネット上にあるデータを私が調べた範囲では、その状況での解約についてサービスから公式に公開されている案内を見つけることができませんでした。
おそらくは、窓口に連絡して個別の状況を説明し、解約するために必要な手順を教えてもらうことになると思います。
判断能力の低下が起きる前に備える方法としては、任意後見契約や委任契約などを検討することが考えられます。ただし、実際にどのような手続で解約や利用停止ができるかは、各サービスの案内や個別対応によるため、一律にはいえません。
そのため、認知症への備えは「パスワードを残すかどうか」だけでは解決しにくい問題だといえます。
「とりあえず書けば安心」ではない
ここで「死亡にも判断能力の低下にもどちらにも対応できるように、とりあえず書いておけば安心だ」となるかというと、私は違うと考えています。
例えば、ネット銀行、証券口座、キャッシュレス決済、メールなどのパスワードまで一緒に渡してしまうと、本人が生きている間でも、本人以外が重要な情報へアクセスできる状態になりかねません。
仮に、死亡後であっても銀行口座へのアクセスができてしまうと、相続トラブルの火種になる可能性があります。
これは本人の財産やプライバシーを守るという観点から見ても、非常に大きなリスクです。
つまり、情報を残すことは、家族の助けになる一方で、安全性のリスクも生むということです。
スマートフォンやパソコンのパスワードはより慎重に
ここまで、「各サービスのパスワード」について考えてきました。
一方で、スマートフォンやパソコンのロック解除方法は少し性質が異なります。
端末の中には、
- 写真
- 連絡先
- 利用しているサービスの手がかり
など、家族がその後の手続きを進めるための情報が数多く保存されています。
もっとも、端末については、死亡を証明すれば家族が自由にロック解除できるとは限りません。
そのため、端末へアクセスする方法については、別に整理しておく価値があります。
ただし、端末は電話番号やメールと接続していることが多く、端末はパスワードを再発行するための認証コードが届く入口となります。つまり、「多くのサービスにアクセスするための鍵束」のような存在です。
このように、一つの端末のパスワードを渡すことが、結果として多くのサービスへアクセスできる状態につながることがあります。
そのため、端末の扱い、エンディングノートに書いても大丈夫なのかは、他のパスワード以上に慎重に考える必要があります。
本当に考えるべきことは「誰に」「何を」「いつ」「どこまで任せるか」
ここまで見てくると、「パスワードを書くか書かないか」という問題ではないことが分かります。
本当に考えるべきなのは、
- 誰に
- どの情報を
- どのタイミングで
- どこまで任せるのか
です。
例えば、
- 死亡後に解約だけしてほしいサービス
- 思い出として残してほしいデータ
- 家族にも見られたくない情報
- 金融資産
これらは同じように扱うべきではありません。
行政書士として私が考える現実的な整理方法
エンディングノートのパスワード記載欄にすべてのパスワードを書く方法はお勧めしていません。
もちろん、「パスワードが分からず家族が困った」という実例は耳にします。そのため、パスワードを残すという考え方自体を否定するものではありません。
代わりに、次のように整理することをお勧めします。
利用しているサービスを一覧にする
まず、自分が何を契約しているのかを整理します。
サービスごとに希望を書く
例えば、
- 解約してほしい
- 家族へ残したい
- 写真だけ保存してほしい
などです。
パスワードを残す必要があるものだけ個別に検討する
ここが一番重要です。
すべて同じ扱いにはせず、本当に必要なものだけを選びます。
パスワードを残す方法も、「エンディングノートに書く」だけに限定するのでなく、それぞれのパスワードの性質を考えて保管方法は慎重に選びます。
特に、金融サービスや決済サービスの認証情報は、他のサービスと同じように扱わない方が安全です。
判断能力低下への備えは別に考える
認知症への備えは、パスワード管理だけでは解決できません。
必要に応じて、任意後見契約など、法的な制度も含めて検討することが大切です。
端末のアクセス方法は特に慎重に考える
ここで重要なのは、「端末を開けられるようにすること」は、「端末以外のサービスへログインできる状態にすること」につながるということです。
端末へのアクセスが可能になると、金融資産や認証情報までアクセスできることにつながる場合があります。
そのため、ロック解除方法をどのように保管し、誰へ、どのタイミングで伝えるか、エンディングノートに書いても大丈夫かについては、他のパスワード以上に慎重に考える必要があります。
まとめ
「エンディングノートにパスワードは書くべきか。」
この記事の出発点はそこでしたが、この問題は二者択一で答えられるものではないことが見えてきます。
死亡した場合と、認知症などで判断能力が低下した場合では状況が異なります。サービスごとに利用ルールや公開されている案内も異なります。そして、金融資産まで、すべてのパスワードを家族へ渡すことが安全とは言えません。
だから私は、「パスワードを書く・書かない」という二択ではなく、誰に、何を、いつ、どこまで任せるかを整理することこそが重要だと考えています。
エンディングノートは、単なる情報の保管場所ではありません。自分の意思を家族へ伝えるためのノートです。
便利さだけではなく、安全性や法的な側面も踏まえながら整理していくことをお勧めします。
一人で悩まず、まずは一緒に整理してみませんか?
この記事を読んで、「思ったより単純な話ではないな」と感じられた方も多いのではないでしょうか。パスワードやデジタル情報の整理は、ご家庭の状況によって最適なものが変わるテーマです。悩まれる方は、どうぞご相談ください。
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▶参考記事
認知症に備えて、終活で今からできること(執筆予定)


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